実はすぐそこまで来ていた、カスタムIEMの世界

ポスト
コンサートやライブ・イベントはもちろん、「ミュージックステーション」や「HEY!HEY!HEY!」などの音楽番組でも、アーティストの耳にぴったりとはまっているイヤホンを見たことがあるだろう。浜崎あゆみ、Perfumeや倖田來未、aikoなど多くの女性アーティストの場合、スワロでキラッキラにデコられ、すでにアクセサリーの一部のようですらある。

▲ロジャー・ウォーターズ
これは音を聞き取るモニターとして、その人にぴったりフィットするように成型されたオーダーメイドのイヤホンで、カスタムIEM(In Ear Monitor)、イヤモニ(イヤーモニター)、インモニ(インイヤーモニター)と呼ばれるものだ。

コンサートでは巨大なPAスピーカーが会場にセットされ、我々オーディエンスは最適のバランスで音楽を楽しむことができるが、実はステージ上の音響バランスは往々にしてとても悲惨な状況にある。当たり前の話だが、ドラムの周りはドラムの音で埋めつくされ、ギターアンプの正面はギターの爆音しか聞こえない。立ち位置では転がしと呼ばれるモニター…ボーカリストがよく足をかけるアレが置かれてはいるものの、場所から離れればとたんに聞こえなくなる。アーティストのステージ音響環境が我々が想像する以上に悲惨で劣悪であることは、なかなか知られていない奇妙な真実だ。

自分の声や演奏が聞こえないようではまともな演奏もままならないわけで、近年猛烈な勢いで普及を見せているのがこのカスタムIEMというわけだ。そしてその普及の波は、プロ・ミュージシャンのみにあらず、実は一般オーディエンスのすぐそこまで押し寄せてきている。

ステージに立たない一般人が、何故にカスタムIEMを欲するのか。答えは簡単だ。ひとえに「音楽を聴く道具として最高のアイテムだから」である。

▲Westone ES5
再生機器としての品質の高さももちろんだが、耳にぴったりはまることで素晴らしい遮音性が保たれ、外界の騒音をシャットアウトしてくれるのがカスタムIEMの特性のひとつ。アーティストにとってステージ上が音の乱立状態であるのと同様、我々オーディエンスにとっても電車内や幹線道路沿いなど、騒音にまみれているシーンは多い。そういう環境で音楽を楽しもうとすると必然的にボリュームは上がり、同時に耳内部の蝸牛殻内の有毛細胞を破壊してしまうリスクを生じる。一定以上の爆音が修復不能の難聴を引き起こすことは周知の事実だが、これは何もプロミュージシャンだけが抱えている問題ではなかったのだ。そう、最小限の音量で最高品質の音楽を安全に聞きましょうというのが、一般オーディエンスにとってのカスタムIEMであり、究極のカナル型ヘッドホンなのである。

とはいえ、これまでカスタムIEMが一般にまで浸透しなかった理由には、価格の問題があった。ざっと10万円以上…趣味で手にするにもいささか高額だったのだ。また、ごく一部を除きほとんどが海外ブランドのため、オーダーから輸入までを個人で行なうしか手段がなく、その敷居はきわめて高かった。オーダーメイドに必要な耳型の採取も必要で、「耳型?え、なにそれ…」と、もうほとんどお手上げ状態である。

そんな中、紹介したいブランドが登場してきた。カナルワークスだ。カナルワークスは、某一流大手オーディオ企業を脱サラし起業した林氏が立ち上げたカスタムIEMブランドである。

2011年5月7日、スタジアムプレイス青山にて「ヘッドホン祭」が盛大に開催された。いい音で音楽を楽しみたいというオーディエンスが殺到、ヘッドホンから周辺機器、アンプ、専門誌まで様々な注目アイテムが所狭しと各ブースに陳列され、あちらこちらで試聴・チェックを希望する人の列が出来上がる大盛況となった。その中でも小さなブースながら開場から閉場まで終始人の波が途切れず、大変な賑わいと見せていたひとつが、カナルワークスのブースだった。

カナルワークス株式会社は、数少ない日本のカスタムIEMブランドとして立ち上がった小さな工房だが、日本製カスタムIEMといえば、須山補聴器が制作するFitEarが最も有名で実績も長い。FitEarは一般オーディエンスへ向けた製品もさることながら、アーティスト/プレイヤーの特性にマッチしたまさしく特製のカスタムIEMをプロフェッショナル向けに開発・提供してきた歴史を持つ。アーティストの耳を爆音から守り安全に音をモニタリングできる専門ツールとして、実に多くのアーティストと深く携わっており、BARKSでお馴染みのアーティストだけでも、AAA、the GazettE、DIR EN GREY、Janne Da Arc、MERRY、スピッツ、ナイトメア、UVERworld、シド、X JAPAN、L'Arc~en~Ciel、Alice NIne、SCANDAL、いきものがかり、雅-miyavi-、ムック、MISIA、氷室京介、秦 基博、柴咲コウ、JASMINE、影山ヒロノブ…もう、きりがない。

一方で、新たに登場したカナルワークスは、完全に一般オーディエンスを対象としており、製品のラインナップから注文の流れ、その実価格にいたるまでがシンプルかつ明快で、カスタムIEM制作への障壁を可能な限り取り除く形で登場してきた。

現時点では、モニター価格を打ち出していることもあり、エントリーモデルCW-L01は、耳型採取費用をも含んだ内容で49,800円(税込)というサプライズ価格で5月7日に登場、最上位機種CW-L31も3ウェイ4ドライバという高スペックを有しながら84,800円(税込)という低価格で展開を始めた。

試聴機によりカナルワークスの各モデルのサウンドを試聴し、期待大のニューカマーであることは確認済みである。カスタムIEMとしての完成品はどのようなサウンドを奏でるのか、その魅力は果たしていかなるものか、実際のオーダーを通し、後日実機レビューを敢行したいと思っている。

一方で、国産カスタムIEMの雄FitEarも5月7日に最新モデルFitEar MH334をリリース、長年の経験と高い技術力を持って他を寄せつけぬクオリティを打ち出している。もはや世界トップクラスの品質を誇るFitEarだけに、満を持して投入されたMH334こそ世界のカスタムIEM界の今を占うアイテムとして注目すべき作品のひとつである。こちらもレビューでその魅力をお伝えしたいと思う。

数千円のエントリーモデルから十数万円のカスタムIEMまで、カナル型ヘッドホンの世界は新たな技術やアイディアも次々と誕生し、まさに百花繚乱の様相を呈している。音楽を楽しむためのツールとして、今一番面白い時代に入ろうとしているようだ。いつのまにか一般リスナーにまで浸透してきたカスタムIEMは、FitEarやカナルワークスをはじめ、Ultimate Ears、ウエストン、JHオーディオ、イヤーソニック、センサフォニクス、ルース、Unique Melody、Sleek audio、1964 Ears…と新旧様々なブランドが、アメリカ/フランス/中国…世界中でひしめき合う戦国時代に突入している。

BARKSヘッドホンチャンネルでは、各カスタムIEMひとつひとつを丁寧に試聴しながら、研ぎ澄まされた最先端の音楽再生ツールの魅力と実力を順次伝えていくつもりだ。

text by BARKS編集長 烏丸


◆FitEarオフィシャルサイト
◆カナルワークス・オフィシャルサイト
◆ヘッドホン祭主催フジヤエービック・カスタムIEMページ
◆BARKS ヘッドホンチャンネル
◆カスタムイヤホン(CUSTOM IEM)専門チャンネル
この記事をポスト

この記事の関連情報